空中を伝わる超音波を用いた非接触振動圧刺激により発毛を促す技術で、新しいヘアケアやAGA治療への応用が期待されます。また発毛剤(ミノキシジル)等との併用も可能です。
<背景>
日本人男性における薄毛(AGA含む)で悩む人口は1,260万人で、そのうち650万人は何らかのケアや治療を行ったことがあると報告されています。その治療法のひとつであるミノキシジル外用薬には、治療開始から効果を実感できるまでにはある程度の時間(4ヶ月~6ヶ月程度)を要すること、AGAが後期まで進行してしまった場合には治療効果に限界があるという課題がありました。
ピクシーダストテクノロジーズは独自の波動制御技術の応用先として、超音波を用いた非接触振動圧刺激による創傷治癒の促進に取り組んできました。これは日本医科大学との共同研究プロジェクトであり、2017年よりAMED-CRESTの助成を受けています。その過程においてマウスの発毛も促進されることが発見されました。その事業可能性について頭髪治療専門のDクリニックをパートナーとして検討を進め、2019年から2020年にかけて健康な20歳以上30歳未満の男性を対象とした臨床試験により、非接触振動圧刺激によって成長期毛割合が増加し、休止期毛割合が減少することを確認しました。
非接触振動圧刺激を頭皮に週1回、20分間照射し、16週前後の成長期毛・休止期の変化を観察したところ、照射群において休止期毛割合が32.1%減少し、成長期毛割合が10.2%増加する結果が得られました。また試験責任医師によると、全ての被験者において非接触振動圧刺激に起因すると考えられる有害事象は見受けられませんでした。
<Case>
■Case.1
美容室/クリニック向けデバイス。アームやポールに超音波デバイスが取り付けられ、離れた位置から超音波を頭部に照射します。
■Case.2
家庭用デバイス。十分な超音波出力を保ちつつ、手で持てるサイズ・重量に作り込むことで日々のヘアケアに使用できます。
<原理>
■音響放射圧
非接触振動圧刺激技術は、空中を伝わる超音波を利用して非接触で皮膚を刺激する技術です。多数の超音波スピーカーが放射する超音波を適切にコントロールし、一点に集中させて焦点を形成します。この焦点における強力な超音波が皮膚に反射される際に、皮膚を押す方向の力が働きます。これは音響放射圧と呼ばれる強力な音波に特有の現象です。非接触で刺激を与えるため医療に応用する際、接触感染の恐れがなく、またデバイスも汚れにくいという利点があります。
■メカノバイオロジー/メカノセラピー
メカノバイオロジーは、機械的な刺激に対する生体の応答を研究する学問です。またメカノセラピーは、メカノバイオロジーの研究成果を臨床に応用することであり、新しい医療技術につながります。近年の研究により、音響放射圧が生じる程度の刺激でも創傷治癒や発毛を促進させる効果があることが分かってきました。現在、日本医科大学と共同でそのメカニズムに迫る研究を進めています。
■主な実績
[Conference] 波間隆則, 高田弘弥, 長田康孝, 小山太郎, 小林一広, 星貴之, 小川令: 非接触集束超音波装置照射による毛髪変化の検討, 第 26 回日本臨床毛髪会学術集会, O-3, オンライン, 11 月 6-7 日, 2021.
[Conference] 高田弘弥, 長田康孝, 波間隆則, 坂井敦, 星貴之, 小山太郎, 小林一広, 鈴木秀典, 小川令: 非接触集束超音波は KATP チャネルを活性化して発毛を促進する, 第 28 回毛髪科学研究会抄録, 芝公園, 12 月 5 日, 2020.
[Conference] 高田弘弥, 長田康孝, 坂井敦, 星貴之, 鈴木秀典, 小川令: 周期的圧刺激による新しい発毛効果, 第 29 回日本形成外科学会基礎学術集会抄録集, O-11-6, みなとみらい, 10 月 8-9 日, 2020.
[Conference] H. Takada, Y. Osada, T. Hama, T. Koyama, K. Kobayashi, and R. Ogawa: Does hair follicular KATP channel gating by minoxidil- and/or mechano-stimulation contribute to hair growth in vivo?, 11th World Congress Hair Research, 24-27 Apr. 2019. [The Best Oral Presentation Award]
[Conference] 高田弘弥, 上田百蔵, 佐野仁美, 小山太郎, 小川令, 星貴之, 古家喜四夫, 喜島小翔, 長田康孝, 波間隆則, 小林一広: 毛乳頭細胞に対する周期的圧刺激およびミノキシジルの作用機序の解明, 第 85 回日本医科大学医学会総会, P-3, 向丘, 9 月 2 日, 2017.